近年、中国人経営者による日本視察ツアーの内容が大きく変化しています。かつて主流だった「爆買い」に代表される消費行動の視察から一転し、現代の若いリーダーたちは、日本の「放課後文化」や学園祭といった文化的な側面に強い関心を寄せています。
彼らは、アニメや漫画で描かれる日常的な青春風景が実際に存在することに驚きを示しています。そして、これを過酷な受験競争にさらされる自国の学生生活と比較し、日本の自由な放課後こそが独創的な物語を生み出す源泉であると分析しています。
この日本特有の青春体験は、世界に誇るコンテンツ制作の基盤であり、他国が容易に模倣できない日本の強みとなっていることが示唆されます。
このように、中国人経営者たちのビジネス視察の目的は、単なる企業見学から日本の文化的な背景の探求へとシフトしており、その実態を紹介します。
かつての中国人経営者による訪日ツアーとは異なり、2025年のツアー参加者は80年代・90年代生まれの若い層が中心となっています。彼らは日本の映画(高倉健など)ではなく、「アニメ・漫画・ゲーム」を通じて日本に親しみを持った世代です。
この世代の大きな特徴は、アニメで見た日本の風景や生活が「実在するのか」を確認したいという動機を持っている点です。そのため、企業視察の希望先も変化しており、従来のビジネス的な視察に加え、「学園祭」や「文化祭」を見たいという要望が急増しました。彼らにとって、アニメで描かれる日本の学校生活はフィクションなのか現実なのかを確かめる「答え合わせ」の旅という意味合いを持っています。
実際に早稲田大学などの学園祭を視察した中国人経営者やその家族は、日本の学生生活に大きな衝撃を受けました。中には、学生たちの姿を見て「これが本当の青春なのか」と感極まって泣き出してしまう参加者もいたほどです。
この反応の背景には、中国における過酷な受験戦争があります。中国では小学生の頃から猛勉強を強いられ、時には学校で点滴を打ちながら勉強するほどであり、部活動や放課後の自由な時間、学園祭の準備といった経験はほとんどありません。彼らにとって日本の学園祭は、自分たちが経験できなかった「青春」そのものであり、アニメの中だけの出来事だと思っていた光景が現実に存在することに驚愕したのです。
ツアーに参加したアニメ制作会社の社長などが注目したのは、日本特有の「放課後文化」がコンテンツの源泉になっているという点です。日本の中高生には、放課後に部活動をしたり、友人とコンビニに寄ったり、夕暮れの中を自分たちだけで帰宅したりする「ダラダラする時間」が存在します。
一方、中国や欧米などの他国では、親が車で迎えに来るかスクールバスで帰宅することが一般的であり、子供たちだけで過ごす放課後の時間は稀です。この「放課後=青春」という特殊な日常体験が日本にはあるからこそ、そこから生まれる多様なストーリーや感情が、アニメや漫画の豊富なネタ(コンテンツ)として供給され続けているのだと分析されました。
AIや3D技術の進化により、中国をはじめとする他国でも映像表現としてのクオリティは日本に追いつき、あるいは追い越しつつあります。しかし、肝心の「ストーリー」を作ることは依然として難しいという課題が浮き彫りになりました。
中国のアニメ作品は、三国志の延長や「貧しい主人公が金持ちになる」といった既存のパターンの焼き直しが多く、日本の作品のような説得力のある青春群像劇を描くための「実体験」が作り手に欠如しています。日本のアニメ・漫画が世界で独自の地位を築けている理由は、技術力以上に、多くの日本人が共有している「放課後文化」という実体験に基づいたストーリーテリングの強さにあると考えられます。これは他国が容易に模倣できない、日本独自の競争優位性であると考えます。